【第2回】ビジネスで求められる論理的コミュニケーションとは
論理的思考力は、ビジネスパーソンにとって必須のスキルだと言われますが、「自分には関係ない」「難しそうだから避けたい」と感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし、VUCA時代と呼ばれる先行き不透明な現代において、論理的思考力の重要性は増すばかりです。あなたの思考の質が、仕事の成果を大きく左右すると言っても過言ではありません。
例えば、自分の考えをまとめて人に説明する際、ついつい感情的になったり、要点がずれてしまったりして「結局何が言いたいの?」と聞き返されたことはありませんか。また、会議で議論が紛糾したとき、本質的な問題の所在が見えず、堂々巡りの議論が続いたという経験はないでしょうか。
論理的思考力は、そんな悩みを解決し、ビジネスの難所を乗り越えるための確かな羅針盤となります。
この連載では、身近なビジネスシーンで活きる論理的思考力の鍛え方を、具体的な事例を交えながらご紹介していきます。論理的に考えることが苦手だと感じている方も、この連載を読み進めることで、思考の引き出しを増やすヒントが得られるはずです。
連載第2回目のこの記事では「ビジネスで求められる論理的コミュニケーションのポイント」について詳しく解説します。論理的に考えるのが苦手の方や、思考の質を高めたい方は是非、最後までご覧ください。
この連載の前の記事
ビジネスの成果を左右する「論理的コミュニケーション」
インターネットの普及やグローバル化により、多様なバックグラウンドを持つ人々とコミュニケーションをとる機会が増えています。このような時代において、異なる文化や価値観を持つ人々と効果的にコミュニケーションを取るためには、自分の考えを論理的に整理し、明確に伝える力が不可欠です。
ビジネスシーンでは、プロジェクトの方向性を決める会議、後輩の教育、クライアントへの提案など、相手の理解と協力を得ることが必要な場面が数多くあります。そうした状況で、相手に自分の意図を適切に伝え、納得してもらい、意図した行動を取ってもらうためのコミュニケーションが「論理的コミュニケーション」です。
一般に「論理的」と言うと相手を論破したり、理屈っぽく話したりすることをイメージするかもしれません。しかし、ビジネスにおける論理的コミュニケーションは、相手の立場に立ち、分かりやすく伝えることに重きが置かれます。
問題が複雑化し、未知なる問題が増加しているVUCA時代に、多様な人々と協働し、新たな価値を創造するために、論理的コミュニケーションの重要性はますます高まっています。
この記事では、論理的コミュニケーションが必要とされる理由と、その具体的なポイントについて解説していきます。
コミュニケーションで必要とされる論理的思考
ビジネスシーンで求められる論理的思考には、大きく2つのタイプがあります。
1つは、問題解決の場面で必要とされる論理的思考です。問題の原因を分析し、解決策を模索する際に活用されます。一般的に、論理的思考というと、このタイプを想像する方が多いのではないでしょうか。
もう1つは、コミュニケーションの場面で求められる論理的思考です。問題解決で導き出した解決策を実行する際、関係者の理解と協力を得るために必要となります。
この記事では、コミュニケーションにおける論理的思考、特に「論理的コミュニケーション」にフォーカスして解説します。
論理的コミュニケーションの必要性
ビジネスの現場では、あらゆるシーンに「意図」が存在します。
プロジェクトの方向性を決める会議では「この方針に賛成してほしい」、後輩の教育なら「この仕事の進め方を理解してほしい」、クライアントへの提案なら「このサービスのメリットを理解し契約してほしい」など、様々な意図があります。
このような状況で、相手に自分の意図を適切に伝え、納得してもらい、意図した行動を取ってもらうためには、「論理的コミュニケーション」が必要不可欠です。
ここで留意すべきは、ビジネスシーンで求められる「論理性」とは、相手を論破したり、理屈っぽく話したりすることではありません。むしろ、相手の立場に立ち、相手の価値観や背景を理解した上で、分かりやすく伝えることが重要なのです。相手の視点に立って考えることで、相手の理解と納得を得やすくなります。
論破することの問題点
逆に、論理的コミュニケーションにおいて、もっとも避けるべきことは「論破」です。
ビジネスの最終的な目的は、相手に動いてもらうことです。しかし、相手を論破してしまっては、その目的を達成することができません。
例えば、会議の場で、自分の提案に対して次のような反対意見が出たとします。
この提案では、リスクが高すぎます。もっと慎重に検討すべきだと思います
これに対して、
リスクがあることは百も承知です。でも、それ以上に、このままでは会社の未来はありません。あなたの意見は、現状維持に甘んじているだけで、何の解決策にもなっていません。私の提案に反対するのは、無責任だと言わざるを得ません
などと、相手の意見を真っ向から否定し、論破してしまっては、相手は感情的に反発するでしょう。たとえ提案が通ったとしても、相手の協力は得られず、円滑な実行は困難になります。
ここまで相手の意見を真っ向から否定することは珍しいかもしれませんが、つい感情的に反発してしまった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
たとえ相手の意見が間違っていたとしても、論破されては、相手は感情的に反発し、協力的になれません。結果として、当初の目的である「相手に動いてもらう」ことが難しくなってしまいます。
感情的な反応を避けるためには、相手の意見をよく聞き、相手の考えを理解しようと努めることが大切です。その上で、自分の考えを丁寧に説明し、相手の理解を得ることが重要でしょう。
論理的コミュニケーションの目的は、あくまで相手に理解してもらい、納得して行動してもらうことです。相手の意見にも耳を傾け、丁寧に説明し、Win-Winの関係を築く。それがビジネスシーンに求められる論理的コミュニケーションなのです。
論理的コミュニケーションのポイント
相手に理解してもらい、納得して行動してもらうための論理的コミュニケーションのポイントを4つ紹介します。
- 具体的なイメージを持って伝える
- やさしく、分かりやすい言葉を使う
- ストーリーの展開を明確にする
- 主張とその根拠をシンプルに説明する
これらのポイントを、具体例を交えながら1つずつ詳しく見ていきましょう。
具体的なイメージを持って伝える
抽象的な表現は、聞き手の理解を妨げ、説得力を低下させます。また、人によってイメージするものが異なるため、後々問題が発生する可能性も高まります。具体的な事実やデータ、事例を交えて説明することで、聞き手と同じイメージを共有し、納得を得やすくなります。
我が社の「ラグジュアリーシャンプー」は、20代女性の高い支持を集めています。「髪がサラサラになる上に、高級感のある甘い香りで癒される」と絶賛されています。昨年の売上データでは、20代女性の購入率が全体の60%を占めています。来季は、人気女性誌を中心に広告出稿を強化して、爽やかな仕上がりと香りの良さを訴求していきたいと考えています
良い例では、具体的な商品名、顧客層、評価ポイント、売上データ、今後の施策が明示されており、聞き手が商品のイメージを持ちやすくなっています。抽象的な表現を避け、具体的な事実やデータを交えることで、聞き手の理解と納得を得ることができます。
我が社の製品は、ターゲット層のニーズを的確に捉えており、今後の売上増大につながるはずです。○○という調査データが示すように、我が社の製品は競合他社と比べて優れた性能を有しているからです。また、□□というマーケティング理論に基づけば、我が社の製品は市場のトレンドに合致しており、需要が見込めます。加えて、我が社の製品は××という点で差別化されており……
一方、悪い例では、抽象的な言葉が多用されており、聞き手にとって具体的なイメージを持ちづらいものになっています。「ターゲット層のニーズ」「優れた性能」「市場のトレンド」などの抽象的な表現では、具体的にどのような製品なのか、なぜ売上増大につながるのかが伝わりません。
やさしく、分かりやすい言葉を使う
難解な専門用語や抽象的な言葉は、聞き手にとって理解の障壁となります。特にカタカナ用語は人によって解釈が異ズレやすいため、意図したメッセージが正確に伝わらない恐れがあります。聞き手に合わせた分かりやすい言葉選びを心がけることで、コミュニケーションの効果を高め、聞き手の賛同を得やすくなります。
うちの主力商品Aは、20代女性を中心に大人気商品となっています。彼女たちは、商品Aを「オシャレで、お手頃な価格」と言っています。昨年の売上データを見ると、20代女性の購入率は全体の60%を占めています。この傾向を踏まえ、来季は女性誌へ広告を出して、商品Aの魅力をもっとアピールしていきたいと思っています
良い例では、専門用語を使わず、聞き手にとって理解しやすい平易な言葉で説明されています。「大人気」「オシャレ」「お手頃な価格」など、日常的によく使われる言葉を選ぶことで、聞き手はスムーズに内容を理解することができます。
我が社の製品は、ターゲット層のラテントニーズを喚起するプロダクトイノベーションを実現しています。また、業界のデファクトスタンダードとされる□□基準をクリアしており、カスタマーデライトを創出することが可能です。加えて、我が社の製品は、××というコアコンピタンスを活用しており、競合他社の製品とのプロダクトディファレンシエーションを……
一方、悪い例では、「ラテントニーズ」「プロダクトイノベーション」「デファクトスタンダード」など、聞き手にとって難解なカタカナ語が多用されています。これらの言葉は、一般的な聞き手にとって耳慣れない専門用語であるため、言葉の意味を理解しようとするあまり、肝心の内容が頭に入ってこない可能性があります。
必要以上に難解な言葉の羅列や、複雑な文章構成は、聞き手の理解を妨げ、コミュニケーションの効果を低下させてしまいます。論理的コミュニケーションにおいて、難解な表現や言い回しは禁物です。もし専門用語を多用している場合は、無意識のうちに自身の知識をアピールしたり、相手より優位に立とうとしたりしていないか確認することをおすすめします。
ストーリーの展開を明確にする
ストーリー(話の流れ)が明確になっていないと、聞き手はポイントを見失いがちです。また、話が前後することで、聞き手の集中力が途切れ、議論の本質から逸れてしまうことがあります。ストーリーを一方向に保ち、順を追って内容を展開することで、聞き手の理解度を高め、論点を明確に伝えることができます。
我が社の主力商品Aは、20代女性に大きな支持を集めています。昨年の売上データでは、20代女性の購入率が全体の60%を占めました。彼女たちが求める「おしゃれで手頃な価格」という特長を備えているからです。この強みを活かし、来季は女性ファッション誌への広告を強化し、商品Aのデザイン性の高さとリーズナブルな価格を全面に打ち出します。これにより、20代女性により効果的にアピールでき、売上のさらなる拡大が期待できます
良い例では、ストーリーが一方向に進んでおり、論理的な展開になっています。商品Aの支持層 → 支持の理由 → 広告戦略 → 期待される効果、と筋道立てて説明することで、聞き手がスムーズに内容を理解できるようになっています。
我が社の主力商品Aについてですが、昨年の売上データを見ると、20代女性の購入率は全体の60%を占めています。そのため、来季は女性誌への広告出稿を強化し、商品Aの魅力をさらにアピールしていくことを提案します。20代女性に支持されているのは、彼女たちが商品Aを「おしゃれで、かつリーズナブル」と評価しているからです。したがって、女性誌への広告を出稿することで、さらに多くの20代女性に商品Aの魅力を……
一方、悪い例では、話題が脈絡なく飛び移り、一貫性が全くありません。最初は売上データの話から始まりますが、突然来季の広告戦略の話になり、そこから商品Aが支持されている理由の話に移ります。次々に話題が変わるため、聞き手はだんだんと話の本筋を見失い、最後には何の話をしているのか分からなくなってしまうでしょう。
主張とそれに対する根拠をシンプルに説明する
主張と根拠が明確でないと、聞き手はその妥当性を評価できません。また、事実と意見が混同していると、聞き手は話の信憑性を疑います。主張と根拠をセットで説明し、事実と意見を分けて述べることで、聞き手の理解を深め、説得力を高めることができます。
女性ファッション誌への出稿を強化することを提案します。商品Aの購入者の60%が20代女性で、90%以上が『デザインが良い』『価格が魅力的』と回答しているためです。また、類似商品Bが女性ファッション誌で広告を出稿した結果、売上が30%伸びた事例もあります。商品Aは商品Bよりも魅力的な特長を備えているため、女性ファッション誌での広告展開は売上拡大に直結するはずです
良い例では、主張に対して具体的な根拠が示されており、事実と意見が明確に区別されています。「女性ファッション誌への出稿を強化する」という主張に対し、商品Aの購入者データ、アンケート調査結果、類似商品の広告効果など、客観的な事実が根拠として提示されています。その上で、それらの事実に基づいた意見が述べられており、説得力のある論理展開になっています。
来季の広告戦略では、女性ファッション誌への出稿を強化することが最適だと考えています。商品Aは20代女性に支持されているブランドだからです。商品Aは、他の商品とは違った魅力を持っており、そのイメージに合った媒体を選ぶことが重要です。ファッション誌は、商品Aのコンセプトにぴったりだと思います。私の経験からも、女性ファッション誌への広告は効果的だと……
一方、悪い例では、主張に対する根拠が不明確で、話者の主観的な意見が多く含まれています。「商品Aは20代女性に支持されているブランド」という主張に対し、なぜ支持されているのかという根拠が示されていません。また、「ファッション誌は、商品Aのコンセプトにぴったり」「私の経験からも、女性ファッション誌への広告は効果的」といった部分は、話者の主観的な意見に過ぎません。
おわりに
論理的コミュニケーションは、ビジネスシーンで成果を出すための必須スキルです。プロジェクトの方向性を決める会議、後輩の教育、クライアントへの提案など、様々な場面で相手の理解と協力を得る必要があります。
論理的にコミュニケーションをすることで、相手の理解と協力を得られる可能性が高まり、業務をスムーズに進められます。それがひいてはビジネスの成果につながるのです。
繰り返しになりますが、ビジネスにおける「論理性」とは、相手を論破したり、理屈っぽく話したりすることではありません。むしろ、相手の立場に立ち分かりやすく伝えることに重きが置かれています。
論理的コミュニケーションのポイントを4つを紹介しました。
- 具体的なイメージを持って伝える
- やさしく、分かりやすい言葉を使う
- ストーリーの展開を明確にする
- 主張とその根拠をシンプルに説明する
これらのポイントを意識し、日々の業務の中で実践していくことが大切です。ただし、論理的であろうとするあまり、冷たい印象を与えてしまわないよう配慮することも必要でしょう。
論理的コミュニケーションは一朝一夕に身につくスキルではありません。相手の理解と納得を得るためには、自分の考えを整理し、論理的に説明する力が必要です。そのためには、日頃から論理的思考を意識し、トレーニングを積むことが重要です。
例えば、自分の意見を主張する際、常に「なぜそう考えるのか」「根拠は何か」を意識してみましょう。また、他者の意見を聞く際は、「論点は何か」「主張と根拠が結びついているか」を考えてみましょう。このような習慣を身につけることで、論理的思考の力が徐々に養われていきます。
同時に、相手の立場に立って考えることも忘れてはいけません。相手の背景や考え方を理解し、そこに共感することで、より説得力のあるコミュニケーションが可能になります。
論理的コミュニケーションは、一人ひとりが意識し、実践していくことで、組織全体のコミュニケーションの質を高めることができます。それは、ビジネスの成果につながるだけでなく、働きやすい職場環境づくりにも寄与するはずです。
この記事で紹介した論理的コミュニケーションのポイントを、是非、日々の業務の中で活かしてみてください。
この連載の次の記事
体験レッスン
自遊考房では社会人向けのオンライン家庭教師サービスを提供しています。
リスキリングに、アンラーニング。学び直しやスキルアップの大切さは言われなくても分かっている。
やろうと思っているけど、なかなかきっかけを得られず、時間ばかりが過ぎていく...
そんな方を対象に、考えを整理したい、考える力を鍛えたい、考える土台をつくりたい方向けに3つのコースを用意しています。ビジネススクールやセミナーの内容をご自宅で受講することができます。
興味を持たれた方は、ぜひ「体験レッスン&説明会」にご参加ください。家庭教師サービスのレッスン内容や雰囲気をご確認いただけます。ホームページでは伝えきれない自遊考房の魅力をご紹介します。